フクロウについて調べた論文が公表されました。

調査研究

「日本中部のアファンの森のフクロウStrix uralensisの繁殖と食性の長期調査」という論文が「Strix」というに本屋長の会の学術誌に公表されました。

これは大いに重みのある論文だと思います。これまでフクロウの食性は林に住むアカネズミ類だとされてきました。ところが、私たちが八ヶ岳で調べたところ、林では確かにアカネズミ類が多かったのですが、牧場の近くではハタネズミの方が多かったのです。

英語では同じネズミをマウスmouseとラットratに分けることはよく知られていますが、実はもう1つヴォウル(vole)があり、四肢が短くコロコロした感じのネズミで、ハタネズミはvoleに属します。実は同種のフクロウはヨーロッパにもおり、主にvoleを食べることが知られていて、mouseを食べる日本のフクロウの方が特殊だということがわかりました。

アファンの森ではフクロウの巣立ち雛数と食べられたネズミが20年に渡って調べられており、最近の9年間はドングリの量も調べられています。私はこれらの情報をなんとか結びつけたいと頭をひねりました。ドングリの結実には豊凶があること、豊作年の翌年にはアカネズミ類が増えることがわかっています。そうすると、ドングリの豊凶→ネズミ数→フクロウの食物内容→雛数という一連の現象に繋がりがあるかどうかの検証ができないかと考えたのです。

こういう生き物のつながりは、唐突に聞こえるかも知れませんが、私が研究してきたシカと植物との関係と通底し、私がずっと心惹かれてきたことです。残念ながら亡くなったニコルさんも同様で、「リンク」は私たちの共有する大切な言葉でした。

さて、これは可能だろうか。

ひとつひとつ取り組みました。ドングリには明らかな豊凶があり、フクロウが食べたネズミの数にも年変動がありました。またフクロウが食べたネズミもアカネズミが多い年とハタネズミが多い年がありました。これはアファンの森の周りに畑や牧場があって、ドングリが少ないと森の中でネズミが確保できなくて、周りの畑に出てハタネズミを食べることを強く示唆します。そこでドングリの数が多いとネズミが多いかを調べると、アカネズミには相関がありましたが、ハタネズミはあまり関係がありませんでした。実はこれは納得できます。ドングリはタンニンという有毒物質を含んでいてたくさん食べると動物には有害ですが、アカネズミは解毒能力を持っていますが、ハタネズミはそれができないことがわかっています。そのため、ドングリが多いとネズミ全体が多いかというと、「関係がないとは言えない」くらいでした。フクロウが食べたネズミが多いと雛数が多いかについては弱いが相関があるという結果でした。というわけで、全体としてはスパッと「ドングリが多いと雛が多くなる」とは言えないが、それぞれの局面では何とか関係が認められるという結論になりました。

一方で私は思います。自然界で起きている極めて複雑な現象が、答えが1つの足し算のように明快に説明できるわけはないのです。むしろ明快でなかった結果の方がリアリティがあるような気さえします。

ニコルさんがお元気な時に論文にできたらよかったのですが、それでも粘りつよい調査で論文にできたことを、天国で喜んでくれていると思います。そのことを論文の謝辞に書きました。

いきものしらべ室 高槻成紀

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