Country Gentleman
自然のお裾分けで食卓豊か=C.W.ニコル

C.W.ニコル 森からの手紙

自然のお裾分けで食卓豊か

 英国で過ごした少年時代――1940~50年代にかけての記憶に残る芳しい匂い、それは焼き栗(ぐり)の匂いだ。通りでは、物売りがまきストーブつきの手押し車で焼き栗を売り歩く。母は生栗も買い、家で居間の暖炉の火床に並べて焼いたものだ。肝心なのは、皮に切れ目を入れてから火にかけること。そうじゃないと、破裂してしまう!

 和栗の味を知ったのは63年の正月、友人宅で供された新年の祝い膳でのことだ。初めて目にするおせち料理の数々は、私にとってはまさに胸躍る未知との遭遇だった。その年の秋、森を散策しながら野生の栗をポケットいっぱいに拾って帰り、山小屋で焼き栗にした。私の小指の先ほどの小さな栗だったが、とてもおいしかった。

 35年ほど前、ここ長野・黒姫の友人が袋いっぱいの栗をくれた。彼が自分で育てている木々になった実だ。粒が大きく、少年時代の記憶に残る栗に似ていた。私は全部食べずに、何個かを鉢に植えた。今、その時の一本は毎秋、バケツ2、3杯分の実をつけてくれる。実がなったら、ぐずぐずしてはいられない。さっさと採らないと、小さな地虫たちの冬のすみかにされてしまう。栗の実を朝一番に採る理由は他にもある。わが家の2頭の馬、雪丸と茶々丸が栗の味を覚えて、みんなかみ砕いてしまうのだ。おまけに、地面に落ちた実を放っておいたら、すぐにイノシシがやって来る。

 栗には8、9種あり、品種も多い。子どもの頃に聞いた話では、英国に栗が入ってきたのは今から2000年ほど前、ローマ人が黒海と地中海に面した小アジアからもたらした。かの地では紀元前2000年前後から栽培されていたという。

 自分の手で植えた栗の木から実を採れるのはうれしいかぎりだ。次世代のため、野生生物のため、この先もっと木を植えていこうと心に決めている。今は毎年、採った栗をゆでて、スプーンで中身をすくい出す。それを真空パックに詰めて冷凍しておく。わが家では、クリスマスに七面鳥を調理するのは私の役目なのだ。(ほんとうは、伝統にのっとってガチョウを使いたいが、手に入れるのは難しい)

 七面鳥の中に詰める具材として、タマネギのみじん切り、シカかイノシシのひき肉、七面鳥のレバーや心臓、砂のうも細かく刻んで入れる。そこに冷凍しておいた栗の実を加え、塩、黒コショウ、セージ、ローズマリー、タイムなどで味を調える。私はふたつきのローストパンを使うが、肉がぱさつかないように、七面鳥のまわりにはざく切りにしたリンゴを並べ、焼いている間も頻繁に肉汁を回しかける。

 こうして田舎暮らしをしていると、自然からのお裾分けで食卓を豊かに彩ることができる。カントリージェントルマンの誇りと喜びを実感するひとときだ。

C.W.Nicol

(訳・森洋子)

2017年12月 毎日新聞掲載

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