Country Gentleman
自然の恵み、ご近所と分け合う=C.W.ニコル

C.W.ニコル 森からの手紙

自然の恵み、ご近所と分け合う

 隣人のヨシオは専業農家だ。だが、1980年に初めて黒姫へ来た当時は、この地域を担当する郵便配達人だった。地元の猟友会に私を紹介し、銃の所持免許と散弾銃を取得する手助けをしてくれた。面倒な事務処理やいくつもの試験をくぐり抜けることができたのは彼のおかげだ。自宅の建設用地を探していたときも、自ら運転する車で近所を案内してくれた。私たちは今もそこに住んでいる。

 ヨシオは私を地主に引き合わせ、小さな一区画を売ってもらえるよう口添えしてくれた。周囲の土地を借り受ける話もまとまった。地主は当初、土地の売却に乗り気ではなかったが、私は「この地に腰を据える」と誓い、約束を守った。実際に家を建て新たな生活を始めるには、無数の関門を越えなくてはならなかったが、私たちが土地の暮らしになじむまで支えてくれた。その後、彼はわが家から100メートルほどのところに自宅を建てた。

 田舎では往々にして、新参者同士が親しくなる。土地のやり方を押しつけられるより、互いの違いを容認し合える関係のほうが楽だからだ。にもかかわらず、私はヨシオという友を得た。彼はとてもシャイで、本来は近所づき合いなど避けたいところだろうが、求めれば必ず力になってくれる。今では彼も私も狩りをやめてしまったが、イノシシやシカの肉が手に入れば、いつも分けてくれる。私がどんなに喜ぶかわかっているからだろう。

 今朝は、ジャガイモを大きなカゴいっぱい持ってきてくれた。私の大好物だ! 終戦後、英国で母と2人暮らしをしていた少年時代、ジャガイモを植え、夏の終わりに収穫するのは私の仕事だった。掘りたてのジャガイモをゆでるか蒸すかして味わう――私にとっては「神々の糧」にも等しいごちそうだ!

 その中に何個か見たこともないイモが交じっていた。皮は黒に近い暗紫色で細長い形、まるでサツマイモのようだ。ヨシオが「Inca’s Tears(インカの涙)」という品種だと教えてくれた。早速、その変わり種をゆでてみた。熱々を切り分け、塩と黒コショウ、バターで味つけをし、刻みたての生バジルを添える。肉色は濃い紫だが、味は普通のジャガイモと同じ――つまり「おいしい」ということだ。

 調べてみたところ、「インカの涙」は他の約3000種のジャガイモと同様、ペルー原産で、起源をたどれば古代インカ帝国の王に供する食物であったらしい。紫色は抗酸化物質のアントシアニンに由来する。ビタミンC、食物繊維、鉄分も豊富。肝臓や脳の健康維持、認知力、病気に対する抵抗力などを高めるのに役立つと考えられている。

 涙どころか、インカに感謝だ。さあ、ビールをついで、そのジャガイモを取ってくれ! あなたの健康に、乾杯!

C.W.Nicol

(訳・森洋子)

2018年10月 毎日新聞掲載

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