Country Gentleman
山火事の脅威はすぐそこに=C.W.ニコル

C.W.ニコル 森からの手紙

山火事の脅威はすぐそこに

 このところ、アメリカのカリフォルニアやコロラドをはじめ、実に多くの国々で大規模な山火事が頻発している。アメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダ、ドイツ、ギリシャ、スウェーデン、ロシア――驚くには当たらないが、被害の深刻さに慄然(りつぜん)とする。これは、すぐには答えの出ない難問だ。

 私はこれまで何度となく、野外でのたき火の方法や適正な利用について話をし、きちんと指導を行うべきだと提唱してきた。夏休みや週末に野外でバーベキューをする人も大勢いる。だが、スウェーデン政府はこの夏、野外でバーベキューをした者には罰金を科するという方針を打ち出したとニュースで知った。同国での森林火災のことを思えば、それも理解できる。

 アファンの森にはたき火専用の炉が3カ所設けてある。どの場所も水場に近く、たき火の際には手近に水が入ったバケツを用意しておく。もう1週間以上雨は降っていないが、この森で火災が起きる可能性はごくわずかだ。理由の一つは、木っ端や枝を散らかさないことにある。アファンでは、木々の成長に必要な空間を確保し、十分な陽光が届くように間伐を行い、朽ち木や枯れかけた枝の伐採もするが、切った木々はきちんとまとめて山積みにしている。

 長年アファンの森を世話してきた林業家は、それでたき火を楽しんでいたものだ。しかし、あるとき、カナダから訪れた友人に「手をつけず、森の土に返したほうがいい」と助言された。木っ端の山は朽ちるまでの間、新たな生き物のすみかとなり、小動物たちの避難場所ともなるのだ。

 私の見るところ、国内の植林されたスギ林の大半は火災の危険がある。放置されていたため、枝と枝とが重なり林床にまで日差しが届かない。その結果、多くの枝が立ち枯れてしまう。乾いて茶色くなったスギの小枝は非常によく燃え、たき火の際には格好の火種となる。雨も降らずに乾燥した状態が続けば、いとも簡単に発火する。

 冬場に猟友会の仲間とノウサギを狩りに出かけた時は、昼になると皆でたき火を囲んだものだ。3、4メートルもの積雪がある時でも、近くにスギの植林があれば薪を集めるのは簡単だった。ひょいと手を伸ばして、枯れ枝をポキリと折ればいいのだ。ほんの数分でひと抱えもある枯れ枝が集められ、しかも恐ろしくよく燃えた! 私たちはたき火で熱いお茶をいれ、仕留めたノウサギの心臓や肝臓、腸に軽く塩をふってあぶり焼きにした。だが、積もった雪のおかげで山火事の心配もなく、燃えさしに足で雪をかけて立ち去るだけでよかった。燃え尽きた後の炭と灰は、春になれば森の土を豊かにするのだ。

 カナダをはじめ、国や地域を問わず、立ち枯れた木々は山火事の危険をはらんでいる。その大半は、甲虫と虫に共生している菌類が引き起こしたとされる。気候変動の影響で、かつては甲虫が繁殖できなかった北方の寒冷地へと活動範囲を広げている。立ち枯れた木は燃えやすく熱量が大きい。日本各地の森で立ち枯れた松を目にするたび、気が気ではない。この国では、ほとんどの人が森林火災の脅威を忘れているように思える。

 カナダの山では、大火災から生じる旋風が谷を一気に駆け上り、次の谷へと燃え広がる様を目の当たりにした。森を育むにはきちんと管理し、枯れ木や枯れ枝は取り除く。そして、万が一に備え、消火活動に使える湖や河川などの水源を整備することが必要だ。

 私の書斎は緑豊かな木々に囲まれ、木漏れ日が机にまだら模様を描いている。開いた窓からは眼下を流れる鳥居川の水音が聞こえてくる。山火事の恐れなど遠い世界のことのように思えるが、、脅威はすぐそこにあるのだ。

C.W.Nicol

(訳・森洋子)

2018年9月 毎日新聞掲載

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