Country Gentleman
楽しみな客人を迎える季節=C.W.ニコル

C.W.ニコル 森からの手紙

楽しみな客人を迎える季節

 今、ひとり書斎にいる。母屋から100メートルほどの距離にある建物の3階だ。2階は私用のジムで、物置代わりの1階は、以前はアファンの森財団の事務所だった。本日は快晴。正面の窓は南向きなので、裸木の間から差し込む光のまぶしさにブラインドを下ろした。夏には青々とした葉が茂り、涼しい木陰を作ってくれるのだが。右手にも窓があり、下を流れる鳥居川を眺め、瀬音を聞くことができる。そのかなたにそびえるのは白銀の衣をまとった黒姫山だ。

 わが家はこぢんまりした木造家屋で、1983年当時の建築費は1000万円ほど。コンクリートの基礎部分は地上2・5メートルの高さがある。屋根にたまった雪が滑り落ちても埋もれないための工夫だ。70代も半ばを過ぎ、若い頃ほど冬を楽しめなくなった。寒いし、燃料費もかさむ。階段の雪かきは手を休める暇もない。とはいえ、雪国の冬は客人を迎える季節。あったかい部屋でごちそうを用意して友をもてなすのが楽しみでもある。

 この地に居を構えた当時、私は銃所持の許可をとり、地元の猟友会に参加し、多くの友を得た。その一人は、今もご近所だ。この友人のおかげでおいしい肉には事欠かない。80年代から90年代初めまでは自分でも猟に出て、野ウサギやキジなどを撃っていた。中にはクマを追うハンターもいたが、クマが大好きな私は、銃口を向ける気になれなかった。現在、イノシシとシカの数が増え過ぎ、多大な被害をもたらしており、間引くしかない状況だ。

黒姫山とニコル(1989年)写真:南健二

 ある朝起きてみると、ガラス張りの玄関入り口にイノシシの前脚1本とあばら肉の半身が置いてあった。昨秋はドングリもクリも豊作で、それを主食にしていたイノシシの肉は「うまい」し、真っ白でおいしい脂肪もたっぷり。キッチンで、大きなまな板にイノシシの脚をのせると、私は慎重に肉と脂肪を切り分けた。あばら肉と合わせて、たっぷり40人分はあるだろう。友人が次に立ち寄った際、秘蔵のシングルモルトウイスキーを1本進呈したのだが、喜んでもらえたらしい。おととい、今度はシカのでん部から後脚にかけて丸ごと1本置いてあった。50人分の食事を作れる量だ。おまけに、貴重なシカのレバーと心臓が二つずつ。シカのレバーは甘みとうまみが濃く、そこにタマネギと薄切りにした心臓を加えて煮込めば、歯ごたえもあるとびきりのごちそうが出来上がる。

 冬は寒くて雪も多いが、ありがたいのは低温のため裏の台所に肉や魚などを出しておいてもすぐには傷まないことだ。凍っていないから、すぐ調理にかかれるし、分けやすい。

 雪国の冬ならではのおもてなしとお裾分け――。ウェールズ人の祖父が生きていれば、さぞ感動しただろう。

C.W.Nicol

(訳・森洋子)

2018年1月 毎日新聞掲載

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