里山ではまきを使うのが賢明
里山のきれいに積まれたまきは心和む風景だ。しかし、今年に限って言えば、このまきが悩みの一つ――うちの敷地に山積みされた大量の丸太をどうしたものか。150センチに切りそろえた丸太を、まきストーブにくべられる長さに切り、さらにいくつかに割ってから、まきとして積み上げる。すでに今冬の分は私とスタッフで準備したが、あと3年分はあるだろう。かなりの時間と労力を覚悟せねば!
丸太の大半はニセアカシアで、30年以上も前、私が養蜂を始めた際に植えたものだ。ニセアカシアからは香り高く甘い蜂蜜がとれるが、この一角に馬小屋を建設すると決めた時に伐採した。
ニセアカシアはマホガニー並みに硬く、きちんと乾燥させて使えば石炭と同じくらい暖がとれる。北米原産のニセアカシアは、日本では生態系を乱す外来種と見られがちだが、私がそれを選んだのは成長が早く、美しい花をつけるからだ。花は天ぷらにしてもおいしい。また、マメ科のニセアカシアは、根粒を通じて土壌に窒素を蓄積し、森林の早期回復にも貢献する。とはいえ、ニセアカシアの樹皮や葉には毒性があり、馬に害を及ぼす恐れがある。今後は、地中に残った根から伸びてくる芽生えを小まめに刈り取っていかなくてはならない。
馬小屋に併設された事務所兼応接室には、米国製の新式まきストーブを設置した。私見だが、里山ではまきを使うのが賢明だと思う。新式のまきストーブは旧製品や暖炉に比べて熱効率がよく、煙も少ない。何より、生物多様性に富む健全な森を育む過程では多くの間伐材が出る。まきの材料を現地調達できるのだから「燃料マイル」はゼロ――つまり、輸送に伴う二酸化炭素とコストがゼロというわけだ。
昔から「まきは幾度も体を温めてくれる」と言われる。最初は木を切り倒す時、次は丸太を切ってまきを割り、それを積み上げる時、そして最後はまきを燃やす時だ。1983年、この地に自宅を建てた際、オーブンと温水循環装置の付いた英国製のまきストーブを設置した。まきを燃やす熱で水を温め、電動ポンプで台所と浴室に給湯する一方、温水ラジエーターで家全体を暖める仕組み。まきはたくさん使うが、家は暖かく快適だ。
当時、私はまだ40代で、カナダ製の重たいおのを手にひとりでまき割りをこなした。70代を迎えた今は、エンジン搭載のまき割り機のおかげで仕事はずっと楽になった。たいした運動にはならないかわり、老骨にむち打つこともない! 本音を言えばエンジン音は耳障りだし、ひたすら重たいおのを振り下ろし太い丸太をたたき割っては胸のつかえやいら立ちを発散した日々を懐かしく思うこともある。
書斎の屋根にドングリが次々落ちてくる。木々の紅葉も盛んだ。さて、燗(か燗(かん)酒で一杯、いかがかな?
C.W.Nicol
(訳・森洋子)
2017年11月 毎日新聞掲載