Country Gentleman
森林火災のリスク、減らすには=C.W.ニコル

C.W.ニコル 森からの手紙

森林火災のリスク、減らすには

 グリーンランドやカナダ・北極地方を巡る旅からの帰途、ノースバンクーバーで数日を過ごした。バンクーバー国際空港を出たとたん、厚い“もや”が街の上空のみならず、はるかな山々までも覆っていることに気づいた。元凶はブリティッシュコロンビア州で数週間にわたり猛威をふるった山火事だ。

 この原稿を書いている時点で、同州だけでも60万ヘクタールもの森林が焼失したという。総出火件数は約900件に上る。以前に比べて雨が少なく短い冬、例年より早い雪解けも原因の一つと考えられる。私がノースバンクーバーに滞在した時も暑い日続きで、申し訳程度の雨しか降らなかった。森林火災が起きれば、大気中にはさらに二酸化炭素が排出され、気候変動に拍車をかけることになる。それはカナダ人に限らず、知性ある者なら誰もが否定しがたい事実だ。

 先ごろ訪れた北極では、氷河の後退を至るところで目にし、海氷減少の現実と、それが野生生物やイヌイットの狩猟、移動に及ぼす影響の大きさをまざまざと見せつけられた。だが、気候変動はこの小さなコラムには大き過ぎるテーマなので、今回は森林火災のリスクを減らす方法について述べたいと思う。

 日本でのキャンプファイアで、最も手軽なたき付けはスギの枯れた小枝だ。この国では不幸にして、大量の針葉樹が植林され、そのまま放置林となったため、足元にはいくらでも乾いた小枝が落ちている。木々が密集したまま育てば、低い枝には日差しが届かず、やがて枯れ、茶色く朽ちて落ちた枝をいくらでも目にすることだろう。これこそが森林火災の元凶なのだ。

 こうした木々を手入れする際はまず、枯れた枝、枯れかけている枝を切り払い、それをまとめて積み上げる。切った枝を山積みすることでより多くの水分を保持することができ、小鳥や動物、昆虫などのすみか、避難場所となる。そして時がたてば、枯れ枝は腐り、土に返って大地の栄養となる。健全な林を育てるうえでも、間伐は不可欠だ。

 カナダの場合、生い茂る雑草も出火原因の一つとなり得る。こうした雑草は伸びるそばから次々枯れるため、火災の危険も増していく。森林や公園、農地、牧草地にはびこる雑草を除去するのに、カナダではヤギの群れを放牧している。ヤギは何でもよく食べるから、除草と給餌の一石二鳥。雑草を食べて育ったヤギが、最後には人間の食料になる。効率的で環境にやさしく、実にうまい利用法だ。

 ヤギによる除草については、さらに調査を進め、このコラムで皆さんに報告できるのを楽しみにしている。ヤギのチーズとオリーブ少々、よく冷えた白ワインをお忘れなく。

C.W.Nicol

(訳・森洋子)

2017年9月 毎日新聞掲載

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