『ウェールズ、いろとりどり』 その11 ~炭坑博物館のコリンさんの話~
国際交流前回のいろとりどりで、ウェールズ・アファンの人たちが日本の災害について、自分のことのように思ってくれていることをお伝えしました。
震災のニュースが流れた直後から毎日
「また新たに地震があったみたいだよ。君は知っているかい?」とか、
「私たちも日本のことが毎日とても心配だよ」
「困っている人同士が助け合っている姿に私たちもほっとするわ」と言ってくれます。
私はテレビのない生活で日本の状況がわかりにくいために不安になることもあり、声をかけてもらえることがとにかく本当にありがたいです。
なぜこんなにも親身になってくれているのだろうかと、その理由の本当のところは実は私はよくわかっていませんでしたが、ここアファン森林公園ビジターセンターに併設されている炭坑博物館のコリンさんが先日こんな話をしてくれました。
「このビジターセンターからそんなに遠くないTaff VallyのAberfanという街にあったボタ山(炭坑採掘時に出る土砂の山)が崩れて麓の学校がのみこまれて、160人の子供と28人の大人が逃げる間もなく一瞬で犠牲になったことがあってねぇ。1966年の話さ。今回の日本の災害がそれを思い出させるんだよ。」
昔、炭坑で栄えたウェールズ・アファンでは炭坑採掘で木のほとんどが伐採され、あちこちにボタ山がありました。炭坑閉山後、一面丸裸の土地に一本ずつ植樹を行い、今は広大な森林をよみがえらせました。
植樹する子供 苗木を育てる風景
(アファン森林公園ビジターセンター提供) (アファン森林公園ビジターセンター提供)
この谷の人たちは、自分たちの繁栄を支えた炭坑が時代の流れの中で終わりを告げられ、涙がどれだけあっても足りない悲しい出来事に直面しながらも、少しずつ緑が回復していく山の姿を自分たちに重ねて気持ちを維持してきたことでしょう。
一日一日の苦労の積み重ねを経て、今のウェールズ・アファンは森の中を走れるマウンテンバイク(MTB)のコースとして、英国内にとどまらず世界のMTB愛好家に知られる存在にまでなりました。
きっと今日までの本当に大変だったこのような半世紀の経験があるからこそ、この谷の人は今の日本を心から気にかけてくれているのだと私は思っています。
日本の皆さんは、目の前の不安を解消することに必死のことと思います。
もちろん現場での直接的でわかりやすい支援はありがたく、そして大事なことです。
しかし、ウェールズ・アファンの人たちのような、もっと長い目で日本のこれからの苦労を理解して気にかけてくれることも重要な支援の一つと今の私は考えるようになりました。
「これから日本の復興には時間もお金もかかると思う。大変なことの連続だと思う。でも、僕らは日本がまたしっかり立ち直ると信じているよ。」
アファンの谷の人たちには「再生の歴史」という実体験があります。
だから、この言葉が決して私の気休めのために言っているものではなく、本当にそう思っていることだと感じています。
日本の皆さん、まずはできることから一つずつ始めてみてください。
そこから、日本の力をウェールズ・アファンの人たちに見せてあげましょう。
きっと地道だけれど確実に前に進む日本の姿を見て、彼らはもっと日本を応援してくれるでしょうし、きっと今以上に好きになってくれると私は思っています。
3月16日
ウェールズ ポートタルボット アファン森林公園ビジターセンターより
(ヒヨ吉)
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ヒヨ吉さん
現在、東京で仕事をする傍ら、アファンの野鳥調査に携わっていただいています。
小学生の頃から野鳥を観察していて、野鳥歴(?)は20年以上。
ニコルの手がけた専門学校の卒業生でもあります。
これまで調査や環境教育などに参画しつつ、野鳥のイラストも描かれていて、
2000年からは英国に留学し、日本では学ぶ場がない「野生生物画」を学んで2003年に帰国。
日本でもイラスト提供や個展など開かれています。
ヒヨドリが大好きなので「ヒヨ吉」。
現在、日英で楽しめる「鳥の本」を製作するために、ウェールズのアファンの森へ出張中。