【ウェールズ便り】お城とビュート侯爵 2

事務局日記

 銀の匙を100万本もくわえて生まれてきたようなビュート候3世、父親こそ悲劇的に亡くしますが、財産は財団の管理下におかれて安全に、しかも若くて美しくて心優しい母親のソフィア未亡人からは十分な愛情を注がれて、寡黙ながらも利発で健康な少年に育ちます。が、この方はよくよく近親のご縁が薄い方なようで、11歳には最愛の母親まで亡くしてしまいます。男の子はやがて、一人を好む本好きの口数少ない若者となり、長じてはオックスフォードに進学して、歴史、宗教、文学美学芸術を学び、研究に没頭する日々を送ります。7ヶ国語が自由に話せ、しかもその他に14の言葉を理解できたそうですから、アカデミックな面の非凡さは、並大抵ではなかったようです。成人して独立された3世候はいわゆる書誌学者となられて、特に中世文学に造詣が深く、美しいものをこよなく愛し古文書などの文献を読み漁る毎日をおくるのですが、これが昂じたのか或いは、自身のドラマの様な人生と比して不動なる天上への憧れが強かったのか、この独身時代に英国国教会からカトリックに改宗してしまいます。名門貴族の誠に美しいご令嬢を娶った後は1女3男にも恵まれて、寡黙温厚にして家族や動物を愛する学者貴族として1900年、53歳で人生をまっとうされました。ビクトリア王朝の英国の絶頂期、ビジネス才能のあった父候とは異なったアカデミックな才能を全開で活かすことが出来た、そういう面では幸運な人生だったといえます。

 

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ビュート候3世の銅像です。
ビュート侯爵、ウインザー子爵、ダンファリー子爵、カーディフ男爵と、この方には大きな爵位が4つもありました。

 

 

 

 

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ヒルトンホテル前にある銅像の足元は、お茶目に剪定された可愛いガーデンです。 

 

 

 

 

 

 候が18歳の時に、カーディフ城とその支城の改修プロジェクトの片腕の天才デザイナー、ウイリアム・バージェスに出会っています。バージェスは候よりも20歳年上、当時すでにネオゴシック装飾の専門家として欧州でも名のある人でした。半端なじゃない中世文化狂い、しかも趣味が昂じて日常でも往々にして中世の騎士や僧侶、貴族に扮していたといいますからかなりの奇人変人で、生涯独身を貫いたことや、あまりにも突飛で奇抜な言動や耽美的なデザインの数々からは、一説には男色・アヘン常習者、誇大妄想だったのではないかとの噂も今日残っていますが、真実は誰も知りません。ただ、同じく中世文化狂いにして家族の無い孤独な3世候が、浮世離れしたバージェスの美学とテイストに共感して、しかも、天才同士のある種の孤独を共有しながらついでに父性も感じたりして、急速にお互いが必要になったとしても不思議はないです。二人のプロジェクトの成功の裏には、3世候の富のみならずバージェスもまた、エンジニアだった父親の裕福な資産財産で働かずして何不自由なく、一生好きな事をして暮らせたという背景がありました。二人のお金持ちの、しかも類稀な天才が出会って共通の美意識を分かち合いそして共に夢を追う。男のロマンの結実が現在の、ニコルさんの率いる6月ツアーが訪問する「カーディフ城とキャステルコッホ城」です。(このコンビでなければ現在はありえないという組み合わせがあるなら(例えば、ビートルズのジョンとポール、漫画家の藤子不二男さんや今上天皇陛下ご夫妻というように)3世候とバージェスがそれといえます。更に二人が幸運だった事は、当時(明治初期頃)、欧米のカトリック伽藍や名高いお城など、中世の建物の多くがこの時期までに修復を終えていたことで、欧州飛び切り一級の石工、彫師、壁画画家、織物職人、タイル職人達を一手に集めることが出来た、というタイミングの良さにもありました。二人の美意識、自信に満ちた知識と経済力、そして時勢。カーディフ城とキャステルコッホは、成功への3拍子が揃った状況の産物です。(続く)

 

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カーディフ城のキープといわれる見張りの塔。
緑溢れる市内が一望に見渡せます。カーディフは、英国内でも樹木が多いことで有名です。

 

 

 

 

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城の前庭では孔雀が放し飼いにされています。

 

 

 

 

 

 

 

インテイリアのごくごく一部です。
(この2枚は、カーディフ市から記載の許可を頂きました。) 

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カーディフ城写真  クリスチャン・ルイスサール  CELT21 UK
その他の写真と文   ルイスサール・奈都世    CELT21 UK

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