【ウェールズ便り】お城とビュート侯爵 3

事務局日記

 カーディフから車で30分そこそこにトンギンラスという小さな村がありまして、この村の坂を上ったところに、キャステルコッホがあります。ウエールズ語で「赤い城」という意味ですが、ディスニーアニメの「眠りの森の姫」のモデルの城になったとも云われ、森に囲まれた円塔がキャラクターの、絵に描いたように可愛いお城です。13世紀時分からあったらしいこのお城も廃墟となって久しかったものを、城の持ち主のビュート侯爵3世とデザイナーのバージェスの手で、例によってまず、歴史文献の調査と現場の発掘から初めて、中世好みに仕立て上げられたものです。全くの余談ですが、私がこの城を初めて散策した1997年6月、ご近所に住むというおばさんが「ハリウッドのねえあなた、ロマン・ポランスキー監督がね、「ドラキュラ」の撮影をしたのよ、あなた、監督はかっこよかったわよお」と頬をそめながら教えてくれました。財団の(か)さんが訪問記でも触れておられましたが、このお城の周りには、行者にんにくがわんさかと自生しています。辺りには「つん」とした餃子風の匂いが漂っていて、話を聞きながらお腹が勝手にぐうぐうと鳴るには困りました。ついでに、ドラキュラの撮影地にニンニクの匂いが漂う環境というのはこれいかにと、「笑点」の歌丸さんや小円遊さんも思い出したりしました。

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キャステルコッホ遠景。

「眠りの森の姫」でもいそうな感じがします。
お城は、婚礼や教育目的の集会所として借りる事が出来ます。

 

 

 

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3世とバージェスは、改修の前には必ず発掘調査をするなど、復元保護もわすれていません。
例えば、赤で囲まれた部分はカーディフ城壁のローマ遺跡です。コッホ城も、13世紀の基礎部分はきちんと調査されて残されています。

 

 

 

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お城を囲む森の、可憐な行者ニンニク。
この花と森の雰囲気から、ロマンチックな人には急激に感激度数が上がります
現実的な人には、ニンニクの匂いに刺激されて一気にお腹がすいてきます。

 

 

 

 

 コッホ城は、3世候が奥様への贈り物として改修されたもので、塔のてっぺんに奥様用の寝室があります。四隅にクリスタル球を配した大きなベッドがどかんと置いてあります。候とバージェスは、美しいグエンドリン夫人をアラビアンナイトに出てくる中世の姫にみたてて、この部屋をアラビア趣味のおとぎ話風にしました。
 城の玄関からダイニングを抜けてホールに入ると、歴代のビュート家の当主と奥方の肖像画が、各自の紋章と共に飾られています。お金持ちだけどうんと器量の悪かった令嬢、この方のお陰で一夜にして伯爵になった初代、若くして無くなったご長男(2世の父)、ビジネスマンの2世に学者肌の3世、その奥方たち、肖像画から其々のキャラクタースタディが出来ます。城内のインテリアは、3世候の宇宙観と人生観に溢れ、占星学や聖書の教えがメインテーマ、併せて、人間界の愚かさをイソップ物語などの寓話にも託して壁絵にしたり日本風の植物絵も配されて、そこかしこに当時のアーツ&クラフト運動の波を反映しています。ここでもまた「へえぇ」と見上げては感心してばかり、あらたに首が疲れる羽目になりますのでご注意を。職人芸の詳細はもう敢えて説明はしませんが、揃い踏みした職人さんたちがここまで腕を惜しみなく腕を振るったのは、彼らがまずバージェスの才能に心酔していた事のみならず、弟子を大事にしたバージェスの人柄にもあったと言われています。デザイン画家のランズデールは、当時の王立アカデミーから世界一周遊学の受賞をしながらもそれを放棄して、敢えてバージェスの元で一弟子として下絵を描いたそうですから、半端ではありません。人の心を捉えるということの大切さを教えられるエピソードです。
 3世候が動物好きだったことから、カーディフ城とコッホ城には動物のモチーフやデザインがふんだんに見られ、精巧な美への感嘆のみならず笑顔もこぼれてきます。こういうところに、バージェスのユーモラスで憎めない個性の表われがうかがわれます。コッホ城は森の中の小規模な城なせいか、自分を城の内外にすうぅと溶け込ませることが出来るような、親近感があります。(続)

 

写真 クリスチャン・ルイスサール  CELT21 UK
文  ルイスサール・奈都世       同上

 

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