【ウェールズ便り】ウエールズ文化 2

事務局日記

 

 ケルト系の人々は話し好きで歌上手、そして特に、声の芸術が盛んなウエールズでは男声合唱団のコーラスが世界的に有名です。大勢が一丸になって危険な炭鉱作業に勤しんだウエールズの人々は、チームワークが得意です。このチームワークの賜物が、男性合唱の魅力とラグビーの強さでもあると云われています。
楽器ではウエリッシュハープが有名です。わが国の皇后陛下もハープを弾かれますが、美しいドレスを着た奏者が綺麗な指先でポロリンポロリンと演奏する姿は優雅でロマンチックですが、見た目ほど楽な楽器ではありません。1998年、英国を訪問された天皇皇后両陛下は、カーディフ城の前庭で200名による男声合唱とハープの演奏を楽しまれました。

 今回6月のツアーでは世界的にも珍しいウエールズの古楽器「クルッス」で演奏される「ブラゴッド」のミニコンサートが企画されています。男声合唱やハープ演奏といったいわば、定番のウエールズ音楽に留まるのは避けたニコルさん企画のツアーならではの音楽です。クルッスは欧州の古楽器ライアーを基としています。このライアーは紀元前3000年前のアフリカを発したもので、旧約聖書のダビデ王が調弦する姿や、グルックのオペラではオルフェスが見事なライナー奏者であることなど、西欧の古典には欠かせない楽器です。ライアーは後にはフィドッル・バイオリンに変化していき、中世初期には殆ど姿を消します。ライアーの姿を残したクルッスが19世紀まで現役で演奏されていたウエールズは、音楽史上でも稀な土地柄なのです。

 

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右がライアー。左二つがウエールズのクルッス。
ライアーには音を響かすホールがありません。
クルッスは全部一つの木で造られています。
両方とも素朴な音を奏でます。現代のバイオリンのような鋭く通りの良い音とは異なった音ですから、こじんまりとした会場でじっくりと聴きたい音です。

 

 

 ブラゴッドは、このライアーとクルッスの男性奏者一人と、女性シンガー一人のコンビです。当日は古ウエールズ語での歌がメインですが、最後に南米の楽器・チャランゴ(マンドリンとギターの中間のような楽器)奏者が加わって、トリオで締めくくります。
中世はこんにちのような社会性や公共・観客マナーなど無かった時代です。車の音こそありませんでしたが、歌や音楽を披露するにも、演奏中に話す食べるは当たり前、その上に酔っ払いは歩き回るし子供や犬は泣きわめくというように、人の騒音の中で歌われていたことは想像に容易です。ブラゴッドのシンガーであるメアリーアンさんは、当時の騒音環境の中で聴衆(主に貴族ですが)を注目させ、しかも声を通らせる為に、ウエールズの吟遊詩人たちが特に工夫したであろう特殊なしかも、独特の発声を復元想定して歌っています。一度聴いたら忘れられない、ミステリアスで耳を傾けずにはおられない魅力があります。

 

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ライアーを弾いているところです。ピックを使っています。
ライアーはアフリカ、エジプトと渡り、ギリシアではキターラと呼ばれました。
ギターもチターも語源は「キターラ」にあるようです。

 

 

 

 このコンサート会場になるのが「ランナフヴィンヤード」ランナフワイン園です。(ちなみにランナフは、Llanerch、LLanは、舌を上あごにつけずに巻いて、喉から息を出して勢いよく舌に当てて両脇から息を出しながら舌を解放するという音で、ウエールズ語の中で一番厄介な発音です。)このワイン園のキャリアド(ウエールズ語でダーリン)というワインですが、さっぱりとした口当たりでフランスでも大変に人気のあるワインです。オーナーが脱サラと趣味で始めたワイン造りですが、気候の温暖化も手伝って素晴らしいワインとなり、フランスから名誉ワイン騎士の称号をおくられるほどのワイン園となりました。2006年、中央公論社の雑誌「リクウ」でニコルさん、このワインナリを紹介しておられます。昨年新オーナーに引き継がれて、宿泊以外にもレストランと料理&ワイン教室が新設されました。ランナフワイン園の地域はスラントリサントといいますが、この土地は少なくとも2000年前からあったようで、ウエールズ語での地名は「3人のケルト聖人の居た場所」です。散策にはもってこいの森と池もありますから、ここでも英国の夏の長い夕方を存分に楽しめます。(続)

 

    ランナフビンヤードの森            喫茶室の木漏れ日

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ランナフヴィンヤード 

こじんまりとしたワイン畑です。
キャリアドは、スパークリング、ロゼ、白の3種のワインです。

 

 

 

 

 

楽器の写真はBen Stammers & Sarah Roberts

ランナフビンヤードの写真はクリスチャン・ルイスサール

文はルイスサール奈都世

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