【ウェールズ便り】炭鉱夫 ジョン・D・プロッサー

事務局日記

 お向かいに住むペギーは今年88歳。薄化粧を忘れず、銀髪をいつも奇麗にうならせた頭脳明晰なおばあ様です。この春ペギーからこんな話を聞かせてくれました。
 
 ペギーの父の名前はジョン・ダニエル・プロッサー。ジョンは、ビュートさんの絶頂期の1880年代に生まれて、荷役ポニーの鼻の高さくらいからビュートさんのロンダ炭鉱で働き始めました。今で言う6,7歳位だと思います。ジョンは気立てが良くて働き者、朝から晩まで真っ黒になりながら、大人に仕えてよく働いたのだそうです。長じては発破技術を取得して炭鉱でもその方面に従事していました。1900年代初頭ジョン29歳の時にとうとう炭鉱の貧乏生活に嫌気がさして、結婚を機にアメリカ移民を決意し、19歳の新妻アニーと弟のスラウリンを伴って船上の人となりペンシルバニアに到着しました。そこで心機一転、都市型の生活を始めるつもりでしたが、ジョンが炭鉱の発破技師だったことを聞きつけたペンシルバニアの炭鉱からお呼びがかかり、またしても炭鉱生活が始まりましす。当時のアメリカの炭鉱技術は英国から見ると大変に劣ったもので、言葉を返せば、英国の炭鉱技術はぴか一だったわけで、子供の頃からの筋金入りの炭鉱夫ジョンほどの知識と経験と発破技術の3拍子を兼ね備えた人物はアメリカの炭鉱にとってはギフトでありました。彼の人柄と技術に魅せられた米国内の炭鉱からお呼びがかかり、ジョンは炭鉱から炭鉱に渡り歩く生活が始まり、お金がどんどん入って来たそうです!!アメリカ版の「お雇い外国人」技師となったわけです。ところが新妻のアニーには異国で頼りの夫が居ない生活は心細くて心細くてたまりません。それでも2年半は辛抱したものの、ジョンの留守中のある日、落雷の直撃で牛が死んだのを目の前で見たことで、異国暮らしの孤独も限界となり寝込んでしまいます。お金がどんどん入ってきていた矢先でもありますから、ジョンは悩みに悩んだそうですが、ペギーの言葉そのままですが「アニーへの愛のために」志を捨てて英国に帰る決断をしたそうです。成功するとどんどんと登りつめることが出来たのが当時のアメリカです。あのまま残っていれば発破長者を約束されたジョンでしたが、そんな事はもう一切忘れて帰国後は、再び元の一炭鉱夫として身を粉にして働き二女にも恵まれ、炭鉱労働従事者の職業病の肺疾患を病みはしたものの、80歳半ばで60年代に生涯を終えたそうです。最後の言葉は「アニー、I love you.」。古き良き時代、誠実に行きた善良な市民の、物語のような一生です。

 当時、英国から北米を目指す貧乏人の移民は無料の船底で航海をしたそうです。ジョンとアニーと弟のスラウリンも芋の子を洗うように人がひしめく環境で寝食していたそうですが、長身の金髪に真っ青な瞳でそれはそれはハンサムだったジョンは同時につややかで深みのあるウーエルズ独特のテナーの持ち主で、毎夜船底の人々に歌を歌って元気付けていたところ、これが船長さんの耳に届いた。ある日船長自らジョンを船底に尋ね、明日の夜から上部の客(お金持ち)の毎夜のディナーに歌って欲しいとお願いされたそうです。この報酬として、ジョン一行は上階の部屋への移動、つまりデッキも窓もあるまともな部屋に食事つきの待遇をあてがわれたそうです。

 さて、ジョンの弟のこれまたハンサムだったスラウリンですが、博打とお酒と女性でトラブルだらけ、無法の時代のアメリカの、鉄砲でズドンの映画のようなすれすれの生活を送っていたそうです。英国帰国後は「悪の魅力」が災いしてカーディフの牧師さん(!!)の娘さんに惚れられて、一生奥さんと神様に頭が上がらず一転、音も立てない一生を送ったそうです。
 
 ツアーではウーエルズ民俗生活博物館を訪問します。ここには、旧炭鉱のコミニュティセンターや、教会や民家や商店などが移設、復元再現してあります。金物屋、よろづ屋、パン屋、どれを見ても懐かしい風情のものばかりです、日本も同じような時代がありました。
ジョンやアニーやペギーの生きた時代が暖かく伝わってきます。名も無い市民の生活ですが、人の営みそこにあった手ごたえと実感が得られます。ウーエルズ生活民俗博物館は、欧州でも人気が高いのですが、人気の理由も良く解かります。

 

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ケルト人の石つくりの豚小屋
円筒形に積み上げて、最後のてっぺんの石で全体を締めます。

 

 

 

 

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 懐かしげな店のウインドウケース

 

 

 

 

 

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村のパン屋さんの復元です。
歩き回るに疲れた4人の中学生が座り込んでいました。

 

 

 

 

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この博物館を学習訪問する学童は、戦前からヴィクトリア時代に遡る生活を体験学習します。写真は、ウーエルズの小さな学校です。先生も児童も当時の服装を着込んで学習します。ちなみに英国内の公営の博物館や資料館は全て無料で訪問者に開放されます。

 

 

 

 

写真と文  ルイスサール奈都世

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