ミソサザイ
Winter Wren
3月の調査は、これまでと明らかに違う点がありました。
それはさえずっている鳥が増えたこと。
特にミソサザイという鳥の「ツピシツルルルスピスピ…」と複雑ながら軽快にリズムを刻む高い声が森のあちこちで力強く響いていました。
アファンには一年中いる鳥ですが、冬枯れから少しずつ春色に変わるこの季節の景色の中で声を聞くのが好きですね。
ふと、頬を伝う森の風が温かくなるように感じます。
大きなミソサザイの声ですが、この鳥の体長はたった10cm程度の手のひらサイズ。
しかも尾を立てているので数字よりも実際は小さく見えます。
しかし、春の訪れを全身で表現する命の輝きは十分持ち合わせている、私の大好きな鳥の一つです。
大きな声で鳴くので、性格も大胆かと思いきや、その小さな体で沢沿いの石や木の根本の周り、茂みの中をちょこまかと動きまわりますので、森を歩いているときに観察するのはちょっと難しい鳥。
姿をしっかり見たいのであれば、人の手による森作りをしているアファンならではの観察方法があります。
それはソダのそばで待つ方法です。
アファンでは森の整備活動のひとつで除間伐など木を伐採しますが、伐採した木の細かい枝などはそのまま放置せず、森の中にまとめて置いていて、それが「ソダ」です。
そこはミソサザイの食物である虫たちがたくさん隠れ家として利用もしています。
つまり、ミソサザイにとっては格好のレストランというわけ。
少し距離をおいてじっと待っていれば、そのうちミソサザイのほうからやってきて姿を楽しませてくれるのです。
森を長年管理をしている松木さんにはソダがミソサザイのレストランになっていることは当たり前のことかもしれません。
しかし、実はこれは人の生活が雑木林と切り離されてしまった現在では貴重な風景とも言える気がします。
人の手が入らなくなり、森の中が笹で覆われてしまった場所では失われてしまったと生き物と人の関係が、ここアファンではよみがえっています。
そんなことが嬉しくてたまらないヒヨ吉です。
(ヒヨ吉)
ソダで食物を探すミソサザイ
撮影:ヒヨ吉
(写真をクリックすると大きくなります。)
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ヒヨ吉さん
現在、東京で仕事をする傍ら、アファンの野鳥調査に携わっていただいています。
小学生の頃から野鳥を観察していて、野鳥歴(?)は20年以上。
ニコルの手がけた専門学校の卒業生でもあります。
これまで調査や環境教育などに参画しつつ、野鳥のイラストも描かれていて、
2000年からは英国に留学し、日本では学ぶ場がない「野生生物画」を学んで2003年に帰国。
日本でもイラスト提供や個展など開かれています。
ヒヨドリが大好きなので「ヒヨ吉」。