『アファンの森、いろとりどり』 ~オオアカゲラ~ (2010年3月)

事務局日記

オオアカゲラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オオアカゲラ
White-backed woodpecker

 

 

3月のアファンの森には、まだ50cmは雪が残っています。そんななかで木の幹の周りから雪が解け、徐々に地表が見え始めてい る場所があり、白いじゅうたんに囲まれている森にも確実に春が訪れていることを感じます。木の周りから雪が解けているのは私にとってちょっぴり神秘的な光景で、そんな様子を見ていると木も本当は体温を持っているのではないかと思えてきます。

 

長年鳥を観ていて、私が憧れの鳥に出会えるときには、「会いたいと願い続けて会える場合」と「ずっと会えなくて諦めかけたときに会える場合」の二つのパターンがあることに気がつきました。今回
私が初めてアファンの森で出会った「オオアカゲラ」は、後者のケースでした。

 

オオアカゲラとは、ハトより一回り大きいくらいのキツツキの仲間。留鳥として北海道から奄美大島まで生息していますが、分布域の広さの割には数は少ないようで、なかなか観察できない鳥です。

 

類似種のアカゲラに比べ、幹の太い木のある森を好む傾向にあると言われ、しっかりした幹の木が増えてきたアファンの森でオオアカゲラを見ることが、私のひそかな夢でもありました。オオアカゲラは広大な面積をテリトリーとするために今のアファンの森の広さで年中生息はできないだろうと予想していますが、冬に餌場としてアファンの森を訪れる可能性はないだろうかと考えていました。しかし、昨年からの調査では発見に至らず、まだ無理なのかなと諦めかけていました。

 

ところが、今回の3月の調査で、一緒に調査してくれているNさんが「あの木の根元にいる鳥、アカゲラじゃないですよね?」と一言。指差したその先を双眼鏡で探すと、胸から腹にかけて少しずつ赤くなっていく独特のグラデーションに黒い斑点がつく、あの憧れのオオアカゲラの姿が!

 

周囲が雪で白かったために全身の微妙な色の変化が浮き出て、その繊細な羽毛の様子を双眼鏡でもしっかり観察することができました。オオアカゲラが多いといわれる地域にお住まいのNさんも、アファンの森でのオオアカゲラの発見はうれしいようで終始笑顔でした。

 

念願の夢がかなった私は喜び勇んで松木さんにオオアカゲラの発見を伝えると

「そんなもん、前からいるぞー!」との返事。

 

松木さん、ありがとうございます。その言葉が私にはうれしいです。

松木さんが先に発見してくださっていることが、私にはこの上ない喜びです。

 

鳥を見つけることが使命の調査員としては、こんな発言は本当はし てはいけないのかもしれません。でも、毎日アファンの森を歩いている松木さんがオオアカゲラの存在をご存知ということは、木々のためだけではなく、常に生き物たちのことも考えながら森に手を入れてくださっていることを物語っていると思うのです。

 

私はまだまだアファンの森のしくみがわかっておらず、「木を切る手入れの奥深さ」の真髄を理解できる程の経験もなく、鳥の種類ぐらいしか知らない若輩者に過ぎません。松木さんの「そんなもん、前からいるぞー」という言葉によって、ようやく松木さんの頭の中にある緻密な森林管理コンピュータのごくごく一部を理解できるのです。

 

その昔、藪に覆われていたことで「幽霊森」とまで言われたアファンの森で今もなお全力を注ぎ続ける松木さん。きっとこれからも生き物たちに愛情を注ぎ、発見をしていかれるだろうと思います。

 

大きな木を好むオオアカゲラの出現は、改めて松木さんのこれまでの仕事の成果を感じさせてくれました。

 

アファンの森を想うとき、松木さんの存在こそが大事だよと教えてくれたオオアカゲラ。アファンの森にとっても、私にとっても、とても意味の深い発見となりました。

(ヒヨ吉)
 

…………..

ヒヨ吉さん

現在、東京で仕事をする傍ら、アファンの野鳥調査に携わっていただいています。
小学生の頃から野鳥を観察していて、野鳥歴(?)は20年以上。
ニコルの手がけた専門学校の卒業生でもあります。
これまで調査や環境教育などに参画しつつ、野鳥のイラストも描かれていて、
2000年からは英国に留学し、日本では学ぶ場がない「野生生物画」を学んで2003年に帰国。
日本でもイラスト提供や個展など開かれています。
ヒヨドリが大好きなので「ヒヨ吉」。

 

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