Country Gentleman
ワインと馬のすてきな関係=C・W・ニコル

C.W.ニコル 森からの手紙

ワインと馬のすてきな関係

 近ごろはレストランでワインを注文すると、店員がアドバイスしてくれる。襟元に大抵、金色の小さなバッジが輝いている。一房のブドウをかたどったバッジは、ワインの専門家たるソムリエの証し。

 アファンの森近くのサンクゼール・ワイナリーに、フランスで修業したソムリエがいる。彼に聞いた話では、元は荷運び用の動物を扱う者を指す言葉だった。それが転じて、フランスの貴族がパリの別宅を訪れる際、領地より持っていくワインや食料などの選定から品質管理までを行う責任者を意味するようになった。ソムリエは、数日かけてパリに到着した時、どのワインが最良の状態で供せるかを判断する専門知識が求められた。歴史をさかのぼればワインと馬には深い縁があった。

 サンクゼールの久世良三会長と妻まゆみさんはスキーロッジを営むため北長野の飯綱町に来た。初めはまゆみさん特製のリンゴジャムをささやかに売っていたが、高級食料品、シードル、ワイン、アップルブランデーで知られる世界的なブランドに成長した。サンクゼールは数年前から、隣接する信濃町、それも我が家のすぐそばに新たなブドウ園を開拓中。寒さと病気に強いヤマブドウに接ぎ木したブドウを植えているところだ。

 フランスやイタリアなどのワイン醸造所、ことに独自ブランドの高級ワインを手がける家族経営のワイナリーは、畑を耕し、収穫したブドウを運ぶのに、昔のように馬を使うところが増えている。機械を使うと重みで土が固められ、振動は根にダメージを与える。馬を使えば土壌の風通しと吸水性も良くなり、耕した土は軟らかく、ミミズが生息しやすくなって、土壌改良に一役買ってくれる。

 馬が働く姿に人はひかれる。アファンの森では馬を使って伐採した木材を運び出しているが、その光景に見入る人々を幾度も目にしている。

 私はサンクゼールの友人たちに、土を耕すのにアファンの森の2頭の馬を使ってみないかと提案した。新しいブドウ園は馬も歩いて通える。道産子の血を引く雪丸と茶々丸は体重約400キロ、すきを引くには十分な大きさだ。

 5月、私たちはデモンストレーションを行い、2頭の馬はメディアや関係者が見守る中、大人が歩く程度のスピードで難なくすきを引いてみせた。馬は注目されるのが好きで、特別な役目を与えられるのがうれしくてたまらない。

 馬を導入したワイナリーはブドウの質や収穫量が上がった上、訪れる旅行者も増え、ワインツーリズムに劇的効果が見られた。

 サンクゼールと協働できることを楽しみにしている。久世さんも私も、よそからやって来て、新たな道を切り開いてきた。この土地で生活の質や環境が少しでも良くなるよう力を尽くしたいと願う。

 ワインと馬を愛する全ての人に乾杯!

C.W.Nicol

(訳・森洋子)

2019年7月 毎日新聞掲載

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