Country Gentleman
フクロウと共に育つ森に=C・W・ニコル

C.W.ニコル 森からの手紙

フクロウと共に育つ森に

 雪が解け、ここ北長野の里山では今年も木々が美しい花を咲かせてくれた。自然に対する感謝の念から、アファンの森で20年以上も新たな命を育んできたフクロウの夫婦に思いをはせた。今年はヒナが3羽誕生し、もう巣箱の外の世界に興味を示している。

 私たちのアファンの森は混合林の二次林なので、一番古い木でも樹齢80年ほどだ。フクロウは本来、古木のうろに巣を作る。今、アファンの森に条件にかなう木はない。以前にはうろのある木が1本あり、今回の夫婦よりも若いつがいが巣をかけ、ヒナを育てた。だが、そのカバノキはほどなく嵐で倒れ、夫婦の子育ては1年で終わりを告げた。

 健全な森を育てるには、野ネズミが増えすぎないようにフクロウの手助けが必要だ。野ネズミは小さくて可愛いが、冬の間、若木の糖分を含んだ根をかじって木を枯らしてしまう。そこで私たちは25年ほど前、森に木製の巣箱をいくつか置いてみた。その後数年は何も起こらなかった。

 ところが、ある年、巣箱の一つにニワトリの卵大の白い卵が何個かあった。以来毎年、夫婦は同じ巣箱で営巣し、昨年は4羽のヒナを育てた。フクロウは一度つがえば一生添い遂げ、何年も同じ縄張りを利用する習性を持つ。子育て中のフクロウは、アファンの森のネズミばかりか、周辺の畑や牧草地のハタネズミもせっせと捕まえてくれる。

2018年は4羽の雛が孵った

 アファンの森のフクロウは英語でUral owl(学名Strix uralensis)と呼ばれる種。体長50~60センチ、頭部は丸く耳(羽角)はない。淡いグレーのハート形の顔に、大きな黒い瞳。腹部は淡いグレーに茶色の細かいしま模様があり、褐色の長い尾羽が特徴だ。短く折れ曲がったくちばしはオレンジがかった黄色をしている。ヒナは驚くほどふわふわで愛らしい。

 ヒナがかえると、夫婦そろって子育てに励む。ヒナは、消化されない骨や毛をペリットと呼ばれる塊にして吐き出す。親フクロウが巣を離れている間に巣箱を掃除すれば、残されたペリットからヒナがどんなものを食べているか分析できる。生後1カ月ばかりの間に、ヒナは約50匹の野ネズミやハタネズミを食べる。親鳥はペリットを巣の外へ吐き出すため何を食べたか探ることはできないが、ヒナを守り、餌を運ぶのに休む間もないことから、同じくらいの量を必要とするに違いない。

 巣立ちを迎えたヒナは2週間ほど近くの木にとどまり、飛ぶ練習を繰り返す。そのいかめしい顔つきとふわふわの愛らしい姿は、私たちの目を楽しませてくれる。

 英国の伝説では、フクロウは非常に賢い生き物とされる。その真偽のほどは分からないが、間近に接していると、えもいわれぬ優しさ、人の心を和ませる知恵のようなものを感じる。

C.W.Nicol

(訳・森洋子)

2019年6月 毎日新聞掲載

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