Country Gentleman
両陛下と森での思い出=C.W.ニコル

C.W.ニコル 森からの手紙

両陛下と森での思い出

※当時の原文のまま掲載しています。記事での天皇、皇后両陛下は現在の上皇、上皇后両陛下。

 私は昭和37(1962)年に初めて日本を訪れ、平成7(95)年に日本国籍を取得した。間もなく始まる新たな時代に、天皇陛下と皇后美智子さまがこの国に注いでこられた深い慈愛と知恵、平和へのお覚悟が受け継がれんことを願ってやまない。

 私が生まれたのは40年、第二次世界大戦下の英国だ。ウェールズの少年がその後、かつての敵国である日本で人生の大半を過ごし、ましてや日本国民になろうとは、誰も想像できなかっただろう。しかも、この外国生まれの日本人は、天皇、皇后両陛下とじっくりとお話しする機会に3度も恵まれたのだから。

 両陛下に初めてお目にかかったのは、2011年2月のことだ。雪の降る黒姫から上京し、皇居へと赴いた。お二人との話題は、森や野生生物のこと、そして虐待などで心身に傷を負った子供を対象とした私の財団の活動「心の森プロジェクト」などであった。

 どの話題についても、両陛下は、豊富な知識をお持ちだった。懸命に興奮を抑えている私の心臓は今にも破裂しそうだったが、お二人と接していると気持ちが安らいだ。誰にもまねのできない優しさと魅力に満ちた方々だ。

 英国の家族も私も、昔から王室支持者だった。69年にフラミンゴで有名なエチオピアのアビアタ湖でフィリップ殿下と丸1日を過ごす機会に恵まれ、08年にはチャールズ皇太子殿下が北長野のアファンの森に足を運んでくださった。この私は、日本国籍を取得するために英国とカナダの国籍を放棄する道を選んだというのに。

 今も英王室への敬愛の念は少しも変わらないが、この平成の時代に日本国民の一人でいられたことが何よりも誇らしい。天皇陛下と皇后さまほど高潔で慈愛に満ちたご夫婦に、これまで出会ったことがない。日本国の象徴として、両陛下は国内外で誰よりも力を尽くしてこられたと思う。

 16年6月、両陛下は長野を公式訪問され、私はアファンの森をご案内させていただいたのだが、少々緊張した。両陛下は、森の植物については私などよりよほどお詳しいからだ。翌年の5月、私と妻は皇居に招かれ、両陛下とお茶を飲みながらお話しする機会を得た。両陛下は皇居の森を案内してくださった。

 1時間半に及ぶ懇談ではあらゆる問題が話題に上ったが、とりわけ心に響いたのは、天皇陛下が沖縄の人々と文化に寄せられる思いの深さだ。天皇陛下はウチナーグチ(沖縄の言葉)で琉歌を詠まれるほど、沖縄に心を寄せてこられた。陛下が先の戦争にどれほど深い悔恨の念を抱き、また沖縄独特の文化に敬意を払ってこられたか。

 天皇、皇后両陛下が退位後も長くお健やかに過ごされんことを日本国民の一人として祈りたい。

C.W.Nicol

(訳・森洋子)

2019年4月 毎日新聞掲載

 

天皇皇后両陛下のご来訪

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