Country Gentleman
被災地に育つ水鳥の楽園=C.W.ニコル

C.W.ニコル 森からの手紙

 2011年3月11日の東日本大震災の後、私たちは未曽有の災害で心身に深い傷を負った人々を北長野のアファンの森に招いた。宮城県東松島市から大人と子供を迎えたのは同年8月のことだ。この出会いがご縁となり、同市からC・W・ニコル・アファンの森財団に対し、小学校の高台移転に力を貸してほしいとの要請を受けた。森の生物多様性を高め、子供たちが自然の摂理、健全な生態系を間近で学ぶことができるような環境づくりを目指した。そして、宮野森小学校「森の学校」は17年1月完成した。津波被害を受けた野蒜小学校と宮戸小学校とを統合した小学校だ。

2017年に完成した宮野森小学校

 私が東松島市を初めて訪れたのは、11年11月のこと。眼前の光景や話に聞く惨状に深い悲しみを禁じ得なかったが、同時に、復興に向けた人々の努力に感銘を受け、心を揺さぶられた。その折、案内された場所の中に廃虚と化した中学校があった。

 外に立ち、海を眺めていた。あの日、人々に大きな悲しみをもたらしたすさまじい力が襲ってきたその場所から、ハクチョウの群れが隊列を組んで飛来した。高い声で鳴き交わし、力強い翼で風を切りながら、頭上を通り過ぎる。その姿に、重く沈んでいた心に希望が兆すのを感じた!

 海水が押し寄せ、水没してしまった水田へも案内された。何百羽もの水鳥が楽しげに泳ぎ回っていた。ハクチョウ、ガン、カモ、オオバンなどなど。ミサゴが空から急降下して魚を捕る一方、シギやチドリは歩き回って餌をついばむ。水中にはボラがたくさん泳いでおり、コンクリートの破片には早くも小さなカキや貝類が付着し、育っていた。

 私は、震災によって出現したこの湿地を、追悼の意を込めて記念公園とし、エコツーリズムを推進するよう提案した。その結果、元駐日英国大使で、英国の野鳥・湿地トラスト(WWT)の理事をしておられたグラハム・フライ卿が自ら東松島市を視察に訪れた。フライ卿は私の提案に心から賛同してくださった。湿地や水鳥の保護は、地域の生態系を豊かにして漁業に資する。また、渡り鳥がやってくる冬期は、バードウオッチャーをはじめ多くの観光客を誘致することにもつながると。

 行政は巨大防潮堤建設の方針を掲げたが、あれから7年、その場所には今も約30ヘクタールの湿地が広がり、アシの生い茂る大きな池がいくつか残され、多くの水鳥が羽を休める場所となっている。

 まだ解決すべき問題は多く、地元の人々の理解と協力も得なければならない。だが、この計画が成功すれば、国を超えた力強い絆とともに、水鳥のサンクチュアリ(保護区)が誕生することになる。私は、これを最後のライフワークにするつもりだ。皆様からの幅広いご助言とご支援を賜りたい。

C.W.Nicol

(訳・森洋子)

2018年12月 毎日新聞掲載

 

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