Country Gentleman
愛する森を守るために=C.W.ニコル

C.W.ニコル 森からの手紙

愛する森を守るために

 私は1980年に北長野に住み着いた。周辺の山々や森について知るために、地元の猟友会に加わり、銃所持許可を取得し、猟銃を手に入れた。地元のハンターとともに冬山を歩いたおかげで多くを学んだ。野ウサギ、クマ、キジ、実に多彩な野生生物、さらには土地の言い伝えと、いいことが大半だったが、日本の林業の悲しむべき惨状も知った。当時、林野庁は古くからの森を次々に伐採していた。地元長野の黒姫、飯綱、斑尾に残る古木の混合林も例外ではなかった。彼らは多くの命が息づく豊かな森を切り倒し、スギやカラマツの単一林に作りかえたのだ。しかも、針葉樹の植林は手入れも間伐もされずに放置された結果、ひょろ長い木々が密集する過密林となっていた。悲しいかな、かつての豊かな混合林は命の育たぬ「やぶ」へと姿を変えつつあった。

 86年、私は地元の放置林の購入に着手した。いつかこの地に生物多様性豊かな元の森をよみがえらせようとの思いを胸に。それには地元の協力と専門の技術・知識が必要だ。ちょうど猟友会の仲間に、松木(信義)さんという土地のことを知り尽くした林業のプロがいた。それから16年、私たちはともに森林再生に取り組んだ。彼の勧めで、生まれ故郷ウェールズの森林公園にちなんで、森を「アファン」と名づけた。そして2002年、私は森林と資産を寄付し、財団法人「C.W.ニコル・アファンの森財団」を設立した。

整備前のアファンの森

 過去31年間、私たちはアファンの森の再生に心血を注ぎ、多くの調査研究を行ってきた。動物だけをとっても、シカ、イノシシ、キツネ、テン、ほかにも小型の哺乳類が数種……最近ではサルも……みんな、この森をすみかとしているか、しょっちゅうやって来る常連だ。

整備開始から約30年たったアファンの森

 10年、財団に活動拠点となるセンターが完成した。鳥や昆虫類、アファン内数カ所にある池や水路、小川の水生生物調査。また、アファンに隣接する国有林で密生したスギの間伐を行い、馬を使って材木を搬出した結果、どんな植物や昆虫、動物が戻ってきたかも調査した。

 初めの16年は、活動や調査の費用を私が負担したが、現在は財団が引き継いでいる。財団ではあらゆる種類の調査を実施し、異なる分野の専門家を一堂に集めて、それぞれの活動について発表、その後全員で話し合う。これは実に意義があり、重要なことだと思う。すべての生命は必ずどこかでつながっている。異なる分野の研究家と話をするなかで、そうした神秘的ともいえる絆を発見するのは実に刺激的だ。討論の場には、大学教授も学生もいる。研究者、林業家、大学とは無縁の地元の専門家もいる。全員で意見を交換し、次に実施すべき調査や活動を決めるのだ。私たちが知らないことは、森が教えてくれる。

C.W.Nicol

(訳・森洋子)

2017年5月 毎日新聞掲載

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