アファンの森には学生といっしょに春から毎月調査に来ていますが、12月は2-4日おじゃましまし
た。もうすっかり冬のようすで、4日の朝は高い山は白くなっていました。
秋からオニグルミについて次のようなことを調べています。
アファンの森にはクルミが多いですが、これはネズミとリスが利用します。
食べられるのですが、土に埋めたものを一部忘れるらしく、それが母樹から離れて芽生えるのに
役立っています。そうのはずなのですが、ではいったいどれだけのクルミができて、どう運ばれるの
か。ちゃんと調べてみたいと思いました。
それで東京環境工科専門学校 の学生さんの協力を得て、1本のクルミの下に落ちているクルミを
全部数えました。数えるだけでなく、位置も調べました。また今年落ちた実には針金でマーキング
しました。
その後、訪問するたびにその点検をすると、確かに動かされたり、消失したりするものがあり、リス
やネズミが動かしていることがわかります。
誰がくるかを調べるためにクルミを置いて、その前に自動撮影カメラをおくことにしました。
そのためにスギの根もとにあるスギの枝葉を除こうとしたら、そこにたくさんのネズミの食べあとの
あるクルミがありました。たった1本の木の下にたぶん百をゆうに越える数のクルミがありました。
長年の「貯蓄」だなあと思いました。
写真1:アファンの森のスギの根もとに貯められていたクルミ
(東京に持ち帰って撮影)
写真2:ネズミの食べあとのあるクルミ 写真3:リスに割られたクルミ
自動撮影カメラといえば、11月にケンポナシを置いたところ、キツネとテンが訪問しました。
写真4:キツネ 写真5:テン
ケンポナシはたいへん変わった「実」を着けます。
「ナシ」というくらいで、甘くよい香りのする実です。ふつうの多肉果実は子房の発達したものが多
いのですが、ケンポナシはなんと果実を支える柄の部分が肥厚して、カリントウのようになって
「果実」と同じような働きをします。その先端にある丸いのが種子が3個入っている本当の果実です
が、ケンポナシの場合、果柄を果肉がわりにして動物に種子を食べさせます。
写真6:ケンポナシの「果実」
カリントウのような部分が果柄で先端の球状のものが種子(3個入っている)
ガマズミやカンボクなど赤くて目立つ果実は鳥の目にとまるように派手で、枝に長いことついていま
すが、ケンポナシやサルナシは色が地味で早めに地面におちて、よい匂いを出します。これは哺乳
類に種子を運ばせる作戦に違いありません。
でもケンポナシは東アジアの一部にしかないため、調べられたことがないのです。
今回初めて哺乳類が食べにくる写真が撮れました。ささやかな「世界初」で、私はその夜、ワインを
おいしくいただきました。
これとは別の自動撮影は夏から継続していますが、今回、若いオスジカとイノシシ、それにまるま
るとふとったタヌキが2匹写っていました。オスジカは枝角が3本で、これから4本になります。
写真7:オスジカ 写真8:イノシシ 写真9:タヌキ
人間でいえば成人したばかりというところです。シカはこれまでも写真に撮っていましたが、今回初
めて糞を確認しました。いくつかの植物に食べ痕を見ていますが、堤さんによるとツリバナに食害が
出ているそうです。私はアオキを心配しています。房総ではほとんどなくなってしまいました。
森は着実に季節のねじを巻きながら、季節おりおりのドラマを見せてくれます。
(高槻記)
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麻布大学 野生動物学研究室の皆さん
高槻成紀先生が担当されている研究室で、いくつかのご縁が重なり2009年の6月からアファンの森での生き物の調査にご協力いただいています。
2010年3月には麻布大学とアファンの森財団が「学術交流協定」を締結し、一層の協力を進めることになりました。「森林管理が生き物のつながり(リンク)に与える影響を科学的に実証する」を全体のテーマとして、毎年学生が調査研究フィールドとして活動しています。